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「ユニバーサルデザイン化と利用者の参画による開かれた博物館事業」報告

事業名称
「ユニバーサルデザイン化と利用者の参画による開かれた博物館事業」
(平成25年度文化庁「地域と共働した美術館・歴史博物館創造活動支援事業」採択)

事業主体
 和歌山県立博物館施設活性化事業実行委員会(委員長:伊東史朗)
 事業協力:和歌山県立和歌山工業高等学校、和歌山県立和歌山盲学校

事業報告
1、地域や学校等との協働によるさわれるレプリカ作製事業
 和歌山県内に所在する文化財のうち、盗難や災害等で被害を受ける可能性のある重要資料について、和歌山県立和歌山工業高等学校との協働でそのレプリカを作製した。
 対象とした文化財は、かつらぎ町三谷の三谷薬師堂に伝来した女神・男神・童子形神坐像10躯と、紀州東照宮に伝来した仮面「賢徳」の2件である。
 三谷薬師堂の神像のレプリカは二組作製し、一組は博物館内に設置し、視覚に障害のある人をはじめ、あらゆる来館者がさわることができるようにして、博物館展示のユニバーサルデザイン化を進めた。もう一組は、三谷薬師堂に提供し、実物は博物館で保管することで、文化財を継続的に維持・管理できる環境作りを行った。
作製レプリカ2013年度-1
(左の10体が実物、右の10体がレプリカ)

 作製した文化財レプリカは、平成26年2月7日に、作製に関わった7名の和歌山工業高等学校の生徒とともに、かつらぎ町三谷の三谷薬師堂に持参した。
 住職、総代をはじめとする、約20名の地域の方々が集まっていただいたなか、レプリカを奉納し、堂内に安置した。生徒たちには博物館より感謝状を贈呈した。
 レプリカ作製と奉納のようすは、読売テレビ、朝日放送において紹介された。
 ・読売テレビ かんさい情報ネットTen 平成26年3月18日放送
 ・朝日放送 ココイロ 平成26年3月20日放送
レプリカ奉納2013年度
(読売テレビ「かんさい情報ネットTen」)

 仮面「賢徳」は、企画展「仮面の諸相」、スポット展示「和歌祭・面掛行列の仮面」(ともに会期は平成25年12月7日~1月19日、入館者数2753名)の開催にあわせて、紀州東照宮の祭礼・和歌祭で使用される仮面のうち「賢徳」の複製を作製し(和歌山県立桐蔭中学校の生徒も協力)、実物とともに展示したものである。
 レプリカ作製と活用のようすについては、以下の媒体で「多視済済 3Dプリンターで造形したレプリカはどっち?」として紹介された。
 ・『日経ものづくり』(2014年4月号、日経BP社)
作製レプリカ2013年度-2
(左:レプリカ 右:実物)

2、地域や学校等との協働によるさわって読む図録作製事業
 和歌山県内に残される文化財を守り伝えるために、文化財の魅力を紹介する普及啓発用の冊子として『文化財の魅力発見!-歴史を守り伝える-』を、和歌山県立和歌山盲学校の教員と協働し、さわって読む図録として作製した。
 対象となる文化財は、県立博物館の近年の調査研究の蓄積をもとに、3体の仏像・神像を取り上げ(林ヶ峰観音寺菩薩形坐像・滝尻王子宮十郷神社滝尻金剛童子立像・三谷薬師堂女神坐像)、それぞれの表現の特徴やその歴史的な意義を言葉で解説するとともに、各像の全身図版と頭部拡大図版を用意して、輪郭などその形状をどのようにすれば読み取りやすいか盲学校教員と検討しながら、特殊な盛り上げ印刷で蝕図化した。
 通常の印刷と、特殊な透明盛り上げ印刷を重ねることで、視覚に障害がある人、ない人がともに使うことのできる本とし、盲学校をはじめ県内全図書館等と近隣府県盲学校、全国主要博物館・図書館・大学等へ納めて、活用を図った。
 また本冊子と同内容で、判型を縮小し、盛り上げ印刷を行わない普及版小冊子も作製した。
さわって読む図録2013年度1
さわって読む図録2013年度2
(上:表紙【通常の印刷と点字を重ねる】、下:本文【図版に線や点を重ねる】)

3、利用者の参画による教育普及事業
 博物館におけるさまざまな教育普及活動を、利用者自身が主体的に関わって行えるようにするため、博物館2階の学習室を講座・ワークショップ・展示など多目的に使用できる空間として整備し(移動式テーブル、倚子、プロジェクター付きホワイトボードの導入)、一般利用できるようにした(所定の様式での申請が必要)。博物館の主催事業も含め、平成25年度の利用実績は次の通りである。
 7月28日 夏休み講座①「なぜ文化財を守るの?」(博物館主催)
 8月10日 ワークショップ「バルーンアートを作ってみよう」(博物館友の会主催)
 8月10日 夏休み講座②「日本刀鑑賞入門」(博物館主催)
 8月13日 ワークショップ「本物の文化財をさわってみよう!」(博物館主催)
 8月17日 夏休み講座③「くずし字に親しむ(入門編)」(博物館主催)
 8月22日 ワークショップ「新聞紙でトリをつくろう!」(博物館友の会主催) 
 8月24日 研究会「美術史からみる和歌山地方史」(和歌山地方史研究会主催)
10月14日 ワークショップ「癒しの中国茶」(博物館主催)
11月 2日 温故知新の会「紀州忍者発見!」(博物館友の会主催)
12月 8日 ワークショップ「ゆく年くる年来年の干支おもしろお面色つけ体験!」(博物館友の会主催)
12月14日 ワークショップ「クリスマスギフトラッピング」(博物館友の会主催)
12月21日 ワークショップ「クリスマスバルーンアート」(博物館友の会主催)
 1月12日 フォーラム「宗教芸能の深層へ」(東京・成城寺子屋講座主催)
 3月15日 講座「観音菩薩ってどんな仏さま?」(博物館友の会主催)
学習室利用状況2013年度
学習室利用状況2013年度2
(上:8/22「新聞紙でトリをつくろう!」、下:8/24「美術史からみる和歌山地方史」)

事業実施による効果
 公共の博物館が、あらゆる人びとに開かれ、活用されて、その文化的欲求を満足せしめるための社会的環境(ユネスコ:博物館をあらゆる人に開放する最も有効な方法に関する勧告)であるためには、利用者にとっての物理的、心理的な障壁をなくすための不断の努力が必要であり、施設(ハード)のバリアフリーという観点とともに、展示(ソフト)のバリアについても意識的である必要がある。
 和歌山県立和歌山工業高等学校との連携で作製した文化財レプリカについては、地域の歴史を具体的に証明する資料の形を直接体感して、資料の情報を立体的に捉えることができる。これは、視覚に障害のある人が情報にアクセスするための手段として効果的なものであり、またそうして作製したレプリカは結果的に、誰もが使え(公平性)、自由に楽しみ(柔軟性)、触覚による多くの情報と(直感的な情報の認知)、簡単かつ丁寧な解説に触れ(シンプルさ)、破損による影響も少なく(失敗に対して寛大)、博物館展示のユニバーサルデザイン化を促進させる効果があった。
 紀州東照宮の賢徳面については、会期中2753名の入館者数があり、学芸員が直接利用者に作製の理由や方法などをお伝えするとともに、フェイスブック・ツイッターなどSNSにおいて、利用者がその使用状況について紹介している状況が散見された。
 さらにそうして作製した文化財レプリカを、原資料の文化財が伝わってきた地域に提供し、盗難や災害の被害から文化財を守りながら、信仰環境の変化を少なくする取り組みについても、文化財保存の一つの方法として明確な効果があり、被提供者からも現時点では「安心した」「高校生が一生懸命作ってくれてありがたい」等のポジティブな意見をいただいている。こうした取り組みの先行的な実践事例として、博物館としてのさらなる発信を行いたい。
 県立和歌山盲学校との連携で作製したさわれる図録については、視覚障害者の郷土学習、美術学習に活用され、利用者から「情報が簡潔でページ構成に工夫がありわかりやすい」という意見があり、学習効果があったと捉えられる。点訳による文字量の制限(漢字の交ぜ書きに比べて、文字数が拡大する)と、限られた線でいかに立体物を伝わるように表現するかは、困難さの度合いの高い作業であるが、そうして作製した書籍は、結果的に読みやすく、分かりやすい内容になり、老若男女を問わず、利用しやすい本となるといえる。このため、同じ内容で判型を小さくして点字・蝕図を伴わない普及用小冊子については、学校教育、博物館での教育普及などで活用を図る。なお、今回作製したものを含め、これまでに同種の図録を4冊作製している。
 博物館学習室の多目的化と、無料での一般利用を可能にしたことで、これまで場所の不足により活動形態が限定的であった博物館の教育普及活動が活発となった。平成25年度は7ヶ月間に14回のイベントを実施し(イベント実施時以外は通常の学習室として読書や勉強、懇談などに利用)、約500人の利用者が参加した。特にワークショップでは、従来は博物館を利用することが少ない幼児や親子連れの利用者の参加が目立ち、また地元研究会等による歴史や文化に関する研究集会が開催された際は展示室の利用も促進されて相乗効果があった。博物館としてはさらなる告知を行って学習室の利用を促進し、利用者自身が主体となって、利用者どうしが学びあい、またふれあうことのできるスペース作りをサポートしていく必要がある。利用形態の拡大というかたちで博物館の開放性がより増したという点で、十分に効果をあげることができたと考える。
(主査学芸員 大河内智之)
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