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コラム「桑山玉洲のハンコと、玉洲旧蔵の中国絵画」

今からちょうど1年前、平成22年(2010)12月24日。ある個人宅に所蔵されている美術工芸品を調査していた際に、江戸時代の和歌山を代表する文人画家である桑山玉洲(くわやまぎょくしゅう、1746-99)が使用していたハンコが見つかりました。

桑山玉洲・桑山家使用印 全景 個人蔵
桑山玉洲・桑山家使用印 個人蔵

この玉洲の使用印は、約45年前に、旧和歌山県立美術館で開催された「桑山玉洲展」に出陳されて以後、長く展覧会などには出陳されてこなかったものです。
その意味で、約45年ぶりの再出現に、私自身も興奮しました。
現在開催中の「ハンコって何?」という企画展は、この玉洲のハンコの再出現を機に、企画が本格化したといってもよいでしょう。

そもそも、日本の歴史におけるハンコ(=印章)の使用は、古代に中国の影響でもたらされ、国や地域の支配を示す公印(こういん)として使用されました。しかし、こうしたハンコは公的なものであったため、個人には普及せず、中世までは花押(かおう)というサインの一種を自署の証明としていました。ところが、江戸時代になると、ハンコが個人へも普及し、庶民もハンコを使うようになりました。そのため、江戸時代以降の書や絵では、さまざまなかたちでハンコが使われたのです。

とはいえ、書や絵に押された印影(いんえい)としてのハンコは、作品とともに残されますが、実際に押すハンコそのものが残されることは、実はかなりめずらしいといえます。基本的にこうしたハンコは、個人の制作や署名を証明するものであり、一代限りでハンコとしての効力を失うため、後世の誤用や混乱を避けるために、処分されることが多いからです。

その点で、玉洲の使用印が残されてきた意義は、きわめて大きいといえるでしょう。とくに、玉洲のハンコとともに、玉洲の妻である君婉(くんえん、?-1828)や、息子である曦亭(ぎてい、1774-1806)など桑山家のハンコが一括で伝わった点は重要で、桑山家やその子孫によって、これらのハンコが、大切に守り受け継がれてきたことを物語っています。

ところで、玉洲が使用したハンコの中で、とくに興味深いハンコの一つに、玉洲の所蔵印(しょぞういん)があります。
桑山玉洲使用印「明光浦桑嗣粲家蔵印」(陰文長方印) 個人蔵(小) 桑山玉洲使用印 「明光浦桑嗣粲家蔵印」(陰文長方印) 印面 個人蔵(小) 桑山玉洲使用印 「明光浦桑嗣粲家蔵印」(陰文長方印) 印影 個人蔵(小)
桑山玉洲使用印「明光浦桑嗣粲家蔵印」(陰文長方印)個人蔵 一番右は、印影

所蔵印とは、自分の所蔵品に押すもので、いわば、持ち主を示すハンコです。玉洲の所蔵印には「明光浦桑嗣粲家蔵印(めいこうほそうしさんかぞういん)」という文字が彫られています。「明光浦」は和歌浦、「桑嗣粲」は玉洲を指すことから、「和歌浦に住む桑山玉洲の家に所蔵されている」という意味になるのです。

実は、玉洲の一連のハンコとともに、この玉洲の所蔵印を押した中国の絵がいくつか見つかったのも、先の調査の大きな成果でした。すなわち、玉洲が所蔵していた中国の絵が明らかになったのです。
これまで、玉洲が中国の絵を集めて学んでいたことは、文献などから知られていましたが、実際の中国の絵は見つかっていませんでした。

法元人筆意山水図 宋紫岩筆 個人蔵(小) 法元人筆意山水図 宋紫岩筆 所蔵印「明光浦桑嗣粲家蔵印」(陰文長方印) 個人蔵(小)
法元人筆意山水図 宋紫岩筆 個人蔵

上に挙げたのは、このたび見つかった玉洲旧蔵の中国の絵で、江戸時代に来日した宋紫岩(そうしがん、?-1760)という中国人画家が描いた山水図です。右下に押されているのが、玉洲の所蔵印です。


山水図扇面画帖 伊孚九筆 第7図 個人蔵(小) 山水図扇面画帖 伊孚九筆 第7図 所蔵印「玉」「洲」(陽文連印) 個人蔵(小)
山水図扇面画帖 伊孚九筆 第7図 個人蔵

続いて挙げたのも、同じく玉洲旧蔵の中国の絵で、やはり江戸時代に来日した貿易商であり画家でもあった伊孚九(いふきゅう、1698-1747以降?)という人物が扇に描いた山水図です。これは、扇に描いた絵を画帖というアルバム状に仕立てており、アルバムの中には扇に書かれた1面の書と、7面の絵が、貼り付けられています。
上に挙げた部分は、7面目の絵です。この絵の右端にも「玉」「洲」というハンコが、割り印のように押されています。
さらに、このアルバムの表紙には「桑山氏図書記(くわやましとしょき)」というハンコが押され、
山水図扇面画帖 伊孚九筆 表紙題簽 所蔵印「桑山氏図書記」(陽文長方印) 個人蔵(小) 山水図扇面画帖 伊孚九筆 表紙 個人蔵(小)

また、表紙の見返しには、先ほどの「明光浦桑嗣粲家蔵印」が押されていることから、
山水図扇面画帖 伊孚九筆 表紙見返し 個人蔵(小) 山水図扇面画帖 伊孚九筆 表紙見返し 所蔵印 個人蔵(小)
やはり、玉洲の旧蔵であることがわかります。

ちなみに、「桑山氏図書記」のハンコは、先ほどの「明光浦桑嗣粲家蔵印」と同じ石の反対側の面に彫られています。所蔵印の一種ですが、とくに所蔵していた図書に押された「蔵書印(ぞうしょいん)」と呼ばれるハンコです。
桑山玉洲使用印 「桑山氏図書記」(陽文長方印) 個人蔵(小) 桑山玉洲使用印 「桑山氏図書記」(陽文長方印) 印面 個人蔵(小) 桑山玉洲使用印 「桑山氏図書記」(陽文長方印) 印影 個人蔵(小)
桑山玉洲使用印「桑山氏図書記」(陽文長方印)個人蔵   一番右は、印影

このような、玉洲旧蔵の中国の絵は、玉洲が中国の絵から何を学んだのかを明らかにする意味で、玉洲のハンコの再出現とともに、とても重要な発見であるともいえるのです。(学芸員 安永拓世)


企画展 ハンコって何?
和歌山県立博物館ウェブサイト

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