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文化庁美術館・博物館活動基盤整備支援事業「仮面の世界へご招待」事業報告

事業名:仮面の世界へご招待―博物館資料を利用した視覚障害者用教材開発と教育実践―
連携事業者:和歌山県立和歌山盲学校・和歌山県立和歌山工業高校・能面文化協会・和歌山市BBS・和歌山県立博物館友の会
(平成22年度文化庁美術館・歴史博物館活動基盤整備支援事業)

1.館の使命と本事業の関係
 和歌山県立博物館は、和歌山県内に残された豊富な文化財を後世に伝えるため、和歌山県ゆかりの文化財及び博物館資料を、積極的に収集・保管・調査・展示し、その成果を一般に普及するための事業を行っています。
 そうした事業を行う中で、視覚障害者に対しても博物館資料に関する情報の共有化と利用の促進をはかることが、公共施設としての博物館には必須であり、またユニバーサルデザインという観点からも、さわることのできる資料の開発は重要です。だれもが楽しく快適に博物館および博物館資料を利用できる、あるべき博物館像の構築の一歩として、本事業を位置づけました。

2.企画内容
【事業の目的】
 博物館が地域と連携しながら調査・研究を行い蓄積した博物館資料の活用のため、博物館・市民団体・工業高校・盲学校が連携して、視覚障害者が郷土の歴史を学習するための教材を協同で開発・作成し、あわせて作成した教材を用いた触れることのできる展覧会としてロビー展「仮面の世界へご招待―さわって学ぶ和歌祭」を開催。作製した教材は盲学校での教育実践で使用。
【事業概要】
 和歌山県指定文化財「和歌祭仮面群 面掛行列所用品」(紀州東照宮所蔵)のうち、初期の奉納仮面5面などを、県立和歌山工業高校の3D立体コピー技術実習においてABS樹脂を用いた復元品として作成し、和歌山盲学校及び博物館での可触資料とする。あわせて能面文化協会において、仮面の素材感を体験するための、触れて見ることを目的とした能面を作成する。
 可触資料とあわせて、「和歌祭仮面群 面掛行列所用品」に関する触絵図録を障害者と健常者が共有できるものとして編集・作成する。あわせて音声ガイドを作成する。
 作成した仮面・図録を使用して、博物館無料ゾーンでロビー展「仮面の世界へご招待―さわってまなぶ和歌祭―」を開催し、ハンズオンによる展示のバリアフリー、ユニバーサルデザイン化を図る。あわせてボランティアによる鑑賞サポートを行う。
 また作製した仮面・図録を用いた視覚障害者向け郷土学習を、和歌山県立盲学校において行う。学習に際しては、事前に和歌山市BBS・和歌山県立博物館友の会と連携して、盲学校生による縄文時代の土製仮面の制作実習を行い、仮面の歴史を体験学習する。

3.事業実績
【事業の主な内容】
1、さわれる仮面の作成
 和歌山県立博物館が調査・研究し、歴史的位置付けや資料価値の高さを明らかにした、和歌山県指定文化財「和歌祭仮面群 面掛行列所用品」(紀州東照宮所蔵)のうち初期の奉納仮面5面と、大阪府和泉市仏並遺跡出土の土製仮面について、和歌山県立和歌山工業高校の3D立体コピー技術実習においてABS樹脂製復元品を作成しました。
仮面着色後画像
和歌山県立和歌山工業におけるレプリカ仮面の作成方法について
作製したレプリカ仮面の詳細
 また能面文化協会のご協力で、仮面の素材感を体験するための、触れて見ることを目的とした木製仮面(モデルは能面)3面を作成しました。
能面文化協会作製仮面
(左:姥 中:深井 右小面)
 これらレプリカ仮面と木製仮面は2セット作製し、今後の教育活動に資するため1セットは和歌山県立和歌山盲学校に寄贈しました。

2、さわって読む図録の作製
 和歌祭・掛行列の仮面に関するさわって読む図録を、博物館・盲学校が連携して作製しました。この図録はカラー図版と解説文に透明の盛り上げ印刷で触絵・点字を重ねるもので、情報を障害のある人とない人が共有できるものとしています。付録として和歌祭の仮面のうち空吹面の和紙製仮面を作製、添付しました。 
 なおこの図録は博物館・盲学校で使用するほか、和歌山県内の全公立図書館ほかに寄贈し、貸出・閲覧用図書として配布し広く活用を図ります。
仮面の世界へご招待図録全景 仮面の世界へご招待図録
 参考: 図録「仮面の世界へご招待―さわって学ぶ和歌祭―」の制作及び技術協力について
 仕  様 A4・16ページ(印刷面に盛り上げ印刷を重ねる)
      付録:和紙製張子仮面 
 編  集 和歌山県立博物館
 編集協力 和歌山県立和歌山盲学校
   〒649-6338 和歌山市府中949-23 tel073-461-0322
      和歌山県立博物館友の会
 協  力 紀州東照宮
      (財)大阪府文化財センター
 印  刷 (株)ウイング
       〒640-8411 和歌山市梶取17-2 tel073-453-5700
      デザイン ヤマサキデザイン
      点字協力 麦の郷印刷
 技術協力 田中産業株式会社 (特殊盛り上げ印刷)
       〒338-0004 さいたま市中央区本町西4-16-15 tel048-853-5221
      社会福祉法人 日本点字図書館 (点字校正等)
       〒169-8586 東京都新宿区高田馬場1-23-4 tel03-3209-0241
      房本デザイン工房 (和紙製張子仮面制作)
       〒544-0021 大阪市生野区勝山南1-15-5 tel06-6731-2166
      和歌山県立和歌山工業高校 (和紙製張子仮面原型作製)
   〒641-0036 和歌山市西浜3-6-1 tel073-444-0158

3、ロビー展の開催
 1・2で作成したさわれる仮面、さわって読む図録を活用して、博物館ロビーで「仮面の世界へご招待」展を開催し、ハンズオンによる展示のバリアフリーとユニバーサルデザイン化を図りました。この展示では和歌山盲学校の生徒が授業の一環(4を参照)として作製した土製仮面も展示しました。 
 あわせて視覚障害者の快適な鑑賞をサポートするため、音声ガイドの作製と、ボランティアスタッフ等による展示鑑賞サポートも行いました。
ロビー展20100115-2
盲学校・工業高校からの団体来館のようす

4、盲学校での学習への取り組み
 作成した仮面・図録を用いて視覚障害者向け郷土学習を行いました。学習に際しては、仮面の歴史を体験してもらうために、事前に和歌山市BBS・和歌山県立博物館友の会と連携して、盲学校生による縄文時代土面の作製実習を行いました。作製にあたっては、和歌山県立紀伊風土記の丘の協力で、野焼きを行っています。
盲学校の土製仮面3
土製仮面製作のようす  

【参加者の数】
 延べ1725人(ロビー展来館者1537名など)

【実施事業に関する新聞記事等】
 読売新聞(関西版)平成22年12月25日 夕刊 社会面
 毎日新聞(関西版)平成23年1月15日 朝刊 社会面
 産経新聞(和歌山版)平成23年1月21日 朝刊 地域面
 点字毎日(全国版)平成23年2月10日
 朝日新聞(和歌山版)平成23年2月13日 朝刊 地域面
 (その他地方新聞に掲載:ニュース和歌山1/15、わかやま新報1/26、2/6、黒潮タイムス2/15)

○テレビ,関連誌等  
  テレビ和歌山「はばたく紀の国」
  平成23年3月13日10時30分-10時50分
  番組名「触って学ぶ仮面の歴史―視覚障害者の郷土学習をサポートする―」
  ※この番組の映像コンテンツは下記サイトでご覧いただけます。
  教育広報番組「はばたく紀の国―教育は今―」(制作:テレビ和歌山)<3月13日放送分>
  その他報道での紹介あり(テレビ和歌山、インターネット放送局等)

4.事業の成果及び今後の課題
 今回の事業では、以下の3つの活動を柱とし、それぞれで顕著な効果を得られたと考えています。

1、和歌山県立和歌山工業高校との連携で安価で耐久力のある、郷土の歴史に関わるさわれる資料(レプリカ)の作製手法の確立。
 これは3次元デジタイザーを用いた非接触での資料の測量と、ABS樹脂を材料とする立体プリンターによる形成によって文化財のレプリカを作製するものです。安価で丈夫なさわるための資料に適した技術で、同種の機器は全国の工業高校・高等専門学校・大学など公共機関にもあり、同種の資料を普及させることが可能です。
 作製課程において、実習として作業を行った和歌山工業高校産業デザイン課の生徒からは、本物の文化財に身近に接することができたことや、自分たちの作った仮面が多くの人に利用してもらうことなどへの喜びの声があり、生徒たちへの教育効果の一面も見受けられました。

2、和歌山県立和歌山盲学校ほかとの連携で、視覚障害者と健常者がともに利用できる郷土学習用の、特殊な盛り上げ印刷を用いた、さわって読む図録の作製。
 印刷された文字・図版に特殊な透明の素材で展示や線を盛り上げ、見える人、見えない人、見えにくい人がともに使用する図録とするために、資料の選定、解説内容、図版の盛り上げ方を検討しながら製作しました。盲学校において行われる歴史学習の教材として、博物館の資源(資料・研究の蓄積など)を活用することができました。県内公共図書館に寄贈し視覚障害者向けの郷土学習資料として今後も継続的な利用を図って参ります。
 図録内容は、仮面の輪郭をさわりながら、その形の特徴を言葉で説明することをあわせて提供することで、より仮面の形をイメージしてもらえるように作製しましたが、そうした手法は、利用した視覚障害者の方々からも好意的な感想をいただきました。課題としては、特殊な印刷方法であることや付録の和紙製仮面を付けたことで、一冊あたり1万5000円程度のコストがかかり、普及という点では一定の問題が残っているでしょう。

3、1と2で作製したレプリカ・図録を活用したロビー展「仮面の世界へご招待―さわって学ぶ和歌祭―」(会期:2011年1月10日-2月27日)の開催。
 この展示は、精巧なレプリカと点字や盛上印刷を重ねた解説パネル、市民ボランティアによる鑑賞サポート、音声ガイド器による解説などを複合させ、視覚情報だけではない展示環境を構築することができました。資料にさわることで、身体障害の有無にかかわらず、だれもが多くの情報を得ながら展示鑑賞することにより、会期中には和歌山盲学校の生徒・教員を含め、従来来館の機会がなかった視覚障害者の利用が多くあり、また学童・生徒をはじめあらゆる世代の来館者が楽しく仮面の魅力、地域の歴史の魅力にふれあう光景が確認されました。
 なお会期中の2月27日には「「創・使・伝・活」で拓くユニバーサル・ミュージアムの未来」と題して、広瀬浩二郎氏(国立民族学博物館准教授)による講演会を開催しました。
 今後は、こうした地域の歴史を物語る、さわることができる資料を、常設展示や企画展示においても作製・展示し、だれもが楽しめ、さわることを通じて地域の歴史的・文化的な魅力を再発見できるよう、博物館のユニバーサルデザイン化をさらに促進していく必要があると考えています。

 なお、この事業の取り組みについてまとめたテレビ番組「はばたく紀の国―教育は今―」(制作:テレビ和歌山)を、ウェブ上でご覧いただくことができます(20分)。
 「触って学ぶ仮面の歴史-視覚障害者の郷土学習をサポートする-」<2011年3月13日放送>
(学芸員 大河内智之)
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