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桑山玉洲の傑作 那智滝と橋杭岩の屏風

現在開催中の「新発見・新指定の文化財」では、桑山玉洲(くわやまぎょくしゅう、1746?99)の作品がたくさん展示されています。
今日は、ミュージアムトークで、屏風についての質問があったこともありますので、そのうちの一つである「那智山・熊野橋柱巌図屏風(なちさん・くまのはしぐいいわずびょうぶ)」について、少しくわしくご紹介しましょう。

桑山玉洲は、江戸時代中期に活躍した画家で、和歌浦の廻船業・両替商を営む家に生まれました。若いころ江戸へ出て、当時の有名な狩野派の画家についたようですが、その画風に満足できなかった玉洲は、その後、古い絵や中国の絵などを模写しながら、ほぼ独学で絵を学んだようです。のちに大坂の文人である木村蒹葭堂(きむらけんかどう、1736?1802)や、京都の有名な画家である池大雅(いけのたいが、1723?76)との交流を通して、独自の画風を確立していきました。紀州を代表する文人画家の一人として、高く評価されている人物です。また、池大雅の絵画理論を受け継いで、『絵事鄙言(かいじひげん)』などの著作を残したことでも知られています。

今回ご紹介するのは、その桑山玉洲が、那智山の那智滝と串本の橋杭岩を描いた屏風です。那智滝も橋杭岩も、ともに紀南の名勝としてよく知られています。

玉洲屏風(橋杭岩) 玉洲屏風(那智山)
那智山・熊野橋柱巌図屏風 桑山玉洲筆 (念誓寺蔵) (画像をクリックすると拡大します)

右側の屏風の那智山図では、画面のほぼ中央に那智滝を据え、周囲に緑深き山々や、わき上がる雲を配し、その合間に熊野那智大社をはじめとする建物を描いています。画面中央の滝と、そこにたなびく雲が、まるで十字架のようにクロスしているのが印象的ですが、垂直方向にのびる樹木と、水平方向に広がる雲も、画面全体に奥行きを与えているようです。

一方、左側の屏風の橋杭岩図では、右手に熊野灘(くまのなだ)の沿岸を、左手に太平洋とそこに浮かぶ大島を描き、沖にはいくつかの帆船が浮かんでいます。水平方向に大きく広がる画面ですが、手前の樹木、中央の橋杭岩、奥に見える帆船の一群が、いずれも絶妙な場所へリズミカルに配置されており、画面の重要なアクセントになっているといえるでしょう。

また、垂直方向を意識して、かなり描き込んだ右側の屏風と、水平方向への広がりを意識して、あっさりと仕上げた左側の屏風との対比も、見どころです。

玉洲は、寛政5年(1793)、48歳のときに、友人の野呂介石(のろかいせき、1747?1828)・今井元方(いまいげんぽう、??1819)・小田仲卿(おだちゅうきょう、生没年未詳)らとともに、熊野を旅行し、那智滝や橋杭岩を実際に訪れました。玉洲は、その直後の寛政6年(1794)に、熊野旅行でのスケッチなどをもとにしたとみられる「熊野奇勝図巻(くまのきしょうずかん)」という作品を描いており、その中で、やはり那智滝や橋杭岩を主題としています。しかし、この屏風は、その「熊野奇勝図巻」よりも、かなり整理された構図となっているので、画面をかなり意識的に再構成したものと考えられます。

なお、玉洲自身が寛政9年(1797)に書いた「珂雪堂画記(かせつどうがき)」という記録を見てみると、この屏風に相当すると思われる「小屏風一双 那智 橋杭図」という記事があることから、この屏風も、寛政9年(1797)、玉洲52歳のときに描かれた可能性が高いと考えられているのです。

また、左側の屏風のサインでは、中国の五代末から北宋時代、10世紀ごろに活躍した董源(とうげん、生没年未詳)という画家の描き方にならったことを表明している点も、興味深いといえるでしょう。

董源の絵については、黒川古文化研究所(くろかわこぶんかけんきゅうじょ)のホームページの「収蔵品紹介」のコーナーに掲載されている「伝董源筆 寒林重汀図(でんとうげんひつ かんりんじゅうていず)」の画像をご参照ください。

こうした董源風の描き方は、橋杭岩図の画面手前にある中洲や、橋杭岩周辺の水面のギザギザとした波線状の描写によくあらわれています。玉洲は、若いころ、さまざまな中国の絵を見たり手に入れたりして勉強していたようなので、そうした際に、何らかの董源の絵を見たのかもしれません。

いずれにしても、那智山や橋杭岩という日本の風景を主題としながら、そこに中国絵画の描き方や題材を重ね合わせている点が、この絵の重要な見どころで、玉洲の傑作として高く評価できます。

この屏風は、そうした点が認められて、平成19年(2007年)に和歌山市の指定文化財に指定されたのです。

このような絵の魅力や楽しさは、実際に作品の前に立って見てみないと感じ取れないことがたくさんあります。たとえば、絵の大きさや、屏風を折り曲げたときの存在感などは、実際に作品を見ることでしか味わうことができません。
ぜひ、この機会に、博物館で、作品を間近に見てみてはいかがでしょうか。(学芸員 安永拓世)

企画展 「新発見・新指定の文化財」
和歌山県立博物館ウェブサイト

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